木の実

「やぁ! どこに行くんだい? えっへん」
前の方から、歩いてきた麦わら帽子の若者に声をかけられた。
「目の前にある、茂みの中にさ」と答えた。
するとすかさず
「そこに行くのは、やめた方がいいよ。えっへん! 僕はそこの茂みの中から出てきたんだ、えっへん!」
と言ってきたのだった。
こうも言ってきた。
「出てきたというよりも、出られたが正しいんだ。えっへん!あの茂みの中に入るとそう簡単には出られないんだ。うん、えっへん!」
私は、どうしても必要な物があった。
あの木の実だった。
目の前にある茂みの中へ取りに行く必要があった。
麦わら帽子の若者との会話を振り切り前に歩こうとした。
すると
「もしかして、木の実が欲しいのかい?」
と言ってきた。
私は、驚いて
「そうなんだ! 小さいながら栄養満点とされる。あの、オレンジ色の艶々した木の実が必要なんだ!」
と、答えると
「えっへん! その木の実はなかったよ。僕もその木の実を目当てに茂みの中に入ったんだから! 入ったは良かったけど木の実はなかったし探し疲れて帰ろうとしたんだけど、ところがどっこい帰り道が分からなくなって出られなくなったんだ。えっへん!」
「そうなのか」
と私は答えた。
「えっへん! そうなんだよ! えっへん!」
「私なら、目を配らせる自信がある。私は取りに行ってみるよ。」
と、一歩前に歩いた。
すると
「えっへん! あなたみたいな老人が入ると生きて帰ってこれないかもしれないよ。えっへん!」
と、答えたので私は頭に血が上った。
「ていやんでい! ワシは、そんなに、年を食っては、いましぇっん!」
「足腰もこんなにびんびびんだわいっ!」
麦わら帽子の若者は、慌てて言った。
「失礼しました! そう怒らないでくださいよ! 申し訳ないですよ! えっへん!」
そして、麦わら帽子の若者は、こう弁明した。
「僕が、木の実を取りに出掛けて、あの茂みの中に入ったのは、10歳の頃だったんだ。迷いに迷って、やっとのことで出てこられたんだ。今、30歳だよ! 30歳で出てこられたんだ。20年の年月を経たんだ。えっへん!」
私は、驚いた。
「もしや、20年前に行方不明になった。猫ばあさんの孫かい?」
と言うと、
「えっへん!」
と答えた。
「こんな姿になって! ワシャ、びっくりだわい! ワシは猫ばあさんの友人の鳥じいさんだわい! 覚えているかい?」
「えっへん!」
私は、喜んだ。
「さあ、帰ってあげなさい!猫ばあさんは、まだおまえさんを待ち焦がれておる!」
「さあ!」
私は、手を取って早く帰るように促した。
すると、麦わら帽子の若者は、こう言った。
「無理なんだ、えっへん! 僕は、ここにいるけど、ここにしかいられないんだ。」
「20年を経て、出てこられたんじゃないんだ。あの時、僕は10歳の頃だけどお腹を空かせて死んでしまったんだ。こうしちゃいられないと思ったんだろうね、霊体になってさ迷い歩けたんだ。ようやく僕の入った入り口を見つけて以降、二度と木の実を取りに行く人が、現れないように、道に迷うことがないようにと茂みの中の入り口で番をして帰らせているんだ。」
鳥じいさんは、肩を落とし涙を浮かべた。
「そうなのかい、では、帰るよ。」
「えっへん!」
と麦わら帽子の幽霊は言った。
帰ろうと後ろを向くと鳥じいさんの眉毛がくいっと上がった。
「幽霊は年を取るのかい!ワシは聞いたことがないぞよ!」
「もしや、木の実を独り占めをしようと番をして、皆の者を追い返しているのだな!」
鳥じいさんは、木の枝のような腕を無理して掲げ、人差し指をすっと立てた。
「ワシはおまえさんの手を取ったんだ! 間抜けを騙しきれても、この名探偵鳥じいさんは騙せましぇん!」
麦わら帽子の若者は、額に汗をかいた。
「よくぞ、見破いたな! そうだ、あの木の実はすべて僕の物だ!誰にも渡さない!」
草原が風で揺れていた。
目の前には、敵がいる。
耳が敏感になった。
口がカラカラに乾いている、唾を飲み込んだ。
「消えた!」
目の前の敵がいなくなり、血圧が上がった。
風向きが変わったのを感じた。
敵が私の隣に移動してパンチを繰り出そうとしている。
すかさず、避けた。
辺りがしんとした。
「避けるとは、じいさんの割にできるじゃないか、えっへん!」
「ワシをじいさん呼ばわりするとは、まだ……いや、妥当だ。」
敵がしゃがみ足を引っかけてきた。
私は飛びタイミングよくかわした。
着地すると同時に敵の頭に空手チョップをした。
私は慣れていた。
衝撃で地面が割れている。
「ぐぬ……。」
敵が沈みこんでおり、倒れている。
私は、こう答えた。
「猫ばあさんの所へ帰るんだ。それで、許してやる。」
「木の実は、ワシの物だ!」
「無理だ!えっへん!」
麦わら帽子の若者は、激しく口に出す。
「それに、お前は一つ勘違いをしている! えっへん!」
「なにをだ……」
「ここに送らせて木の実を依頼したのは誰だ! えっへん!」
「ワシを送らせたのは、ハッ……!」
「ハハハハハハハハハ えっへん!」
私は、感づいた。
「もしかして……。」
何が、正解か分からない。どのように生きていいかも分からない。
夕日が辺りを照らしている。
すかさず、私は額に汗をにじませ夕日に向かって早歩きをした。


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